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飛鳥京香/SF小説工房(山田企画事務所)

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セイスイ記05

セイスイ記05

 ロイドはベラを深く愛していたことに急にきずいたのだ。なぜ、俺はフガンが彼女を連
れて逃げた時に反応しなかったのだ。自責の念が常にロイドの心を占めていた。過去にさ
いなまれているロイドは周りが見えていない。
「何者だね」急に聖水騎士団の男がいた。
「聖水への帰依を希望するものです。遠くから参りました」
「それは殊勝な心がけだ。どうぞ、この門をとうりなさい」
聖水神殿への道だった。この門では怪しい者がいないか、常に聖水騎士団が見張っていた。
神殿の前はごったがえしていた。
ロイドは巡礼の一人にたずねる。
「何かあったのですか、この騒ぎは」
「お前さん、何もしらないのか」男は不思議そうな顔をする。
「いえ、私は遠くからここへ着いたところで」
「それなら、しかたがないな。『みしるし』が発見されたのだ。これで新しい時代がくる
って、大騒ぎなんだ」
「『みしるし』が」
「そうなんだ。おまけに、今日、我々がその『みしるし』を神殿で拝見できるって訳だ」
聖水神殿に潜入し、聖水プールにたどりついた。
ベラがプールの中で寝ていた。ベラはとても美しく見えた。がここは聖水神殿。信仰の中
心地。敵の本拠。人が多くとてもちかずけそうにない。また、この時期では警備も厳重だ
ろう。ベラを目の前にして、ロイドは無念の涙を流す。神殿から退去し、近くにある建物
の壁に変化した。誰もロイドにはきずかない。彼は周りに同化する能力をもっていた。
 夜になり、人影がなくなった。ロイドは生身にもどった。
ロイドはベラを見付けようと思った。が急に後ろから、声をかけられた。
「これは、これはロイドくんではないですか、それが君の呪術でしたか」フガンだった。
「フガン、俺をどうする気だ」
「そうですね。どうしましょうか」フガンは少し考えていた。
「ベラにあいに来たのでしょう。じゃ、ベラの所まで案内してさしあげましょう」
「なぜ、俺を助ける」
「なぜ、私はこう見えても、血も肉もある人間です。さあ、ついてきなさい」
フガンはロイドを神殿の中央祭壇まで連れていく。
「さあ、早く。ベラを連れておにげなさい。私は消えます」
ロイドは後ろを何度も振り返る。罠ではないかと。が、他には誰もいない。プールにベラ
が沈んでいた。かわいそうなベラ。そして愛しきベラ。ロイドは思った。
「助けにきたぞ、ベラ」
『が、私はもう、昔の基準では生きてはいない』ベラの目が開き、顔をこちらに向けてい
る。どうしたのだ。が恐れずロイドはつずける。
「ベラ、君を愛している。私の手元に戻ってきてほしい。何よりも君が必要なのだ。そう、
私はきずいたのだ」
『もし、あなたが私を愛しているのなら』プールの中、揺らめきながら、ベラはしゃべつ
ている、水の中で。
「君を愛しているのなら、どうするのだね」
『あなたも私と同じように、聖水に同化してほしい』
「君はどうしたのだ」恐れがロイドの心に走った。本当にベラなのか。別の生き物ではな
いか。
『ロイドようこそ』何かがベラの側に形作られていた。
「貴様は」
『水人だよ』
「きさまが水人なのか。ベラを返してもらうぞ」
『ベラがのぞむまい』
「何をいう」
『彼女は我々にとって偉大なる祖先の記憶をもっているのだ』
「まさか、本当ではないだろうな、ベラ」
「残念、本当よ、ロイド。私は聖水のみもとにいる」
「何があった、ベラ」
「私は人類の記憶を取り戻した。あなた方、人類は聖水に同化します」
死刑宣告を受けたかのように、ロイドの体はふるえた。
『我々はこの地球のすべてを手にいれる』
「何だって、そんなことさせるか」
『むだだよ、ロイドくん、君も人類創成の秘密をしれば、我々に従わざるをえんよ』
「まさか、きさまたち」ある考えがロイドの頭に巡った。
『君の考えたとうりだよ』
「まさか、そんなことが」顔が強張る。
ロイドの頭の中にベラの記憶が想起される。
「やめろ、やめてくれ。こんなことがあつてたまるか、こんなことが、くそ、こんなこと
なら、俺を殺せ。ベラ、君の手で、お願いだ」ロイドは喚きながら、涙を流していた。ロ
イドの方へ、聖水プールからのベラの手が伸びていた。何Mの長さに伸びた手が。
やがて、彼の体は溶けていく。
『レインツリーの諸君、表意術でみているだろう』

 海に達した聖水は、海水と激しい争いを繰り返していた。水H2Oを分解し、自分たちの
組成に組み替えていた。それに対して海、地球の海なるものも戦いを挑んでいた。聖水と
海水との境界線は熱をもっていた。蒸発する水が湯気を上らせていた。
 が聖水の方が勢いがあった。彼らはいわば、狂信者であり、ある一定の意志の元に進化
しているものだった。
地球のあらゆるところで、地球の水は変化を遂げていた。地球の水は聖水に飲み込まれて
いた。そして、聖水へと変化していった。






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